経済番組で彼女が微笑みながら銘柄分析を語れば、SNSでは
「由梨香銘柄、最高」
「由梨香の襟元、もっと映せ」
「声に色気がありすぎ」
と話題になり、番組の視聴率も好調を維持していた。
ところが、社内で行われた視聴率データの調査をきっかけに、由梨香にある疑惑が浮上する。
彼女が出演した番組の終了後、異常な値動きをする株が存在するというのだ。
当局も捜査に乗り出すとの噂の中、社内の会議で追及されると、彼女は無言のまま、シャツの襟をゆっくり整え、穏やかな笑みを浮かべていた。

いつもなら何でもない動作のはずなのに、同僚たちは妙に胸騒ぎを感じてしまう。
「まさか、あの仕草に何か意味が…?」
数日後、宮地由梨香は逮捕された。

未公表情報を入手していた由梨香は、生放送の番組内でシャツの襟の角度でサインを作り、複数の投資家へメッセージを送ることで相場を操る“相場操縦”を行っていたのだ。
かつて「華やかなエリート」「妖艶なアナリスト」と称えられた宮地由梨香はメディアで散々に叩かれた。
ちょうど同じ時期、全国の保護猫支援団体に謎の寄付が相次ぎ行われているというニュースが流れた。億単位の巨額な寄付だったことで世間はその話題に夢中になり、由梨香のスキャンダルは忘れられていった。
数年後、下町の路地裏にある保護猫カフェ「Chat Noveau」が大人向けの隠れ家として評判を呼んだ。
落ち着いた照明の下、可愛らしい猫たちが客を癒やし、店主は“上條”という名で静かに切り盛りしている。
地域の情報番組が取材に訪れることになり、上條店主が恥ずかしそうにインタビューを受ける。
「こちらの猫たちはみな保護施設から…」「静かな環境で、猫とのんびり過ごしてもらえたら嬉しいです」と、低めの優しい声で淡々と語る。

取材カメラマンは、彼女が少し動くたびに揺れるシャツの襟元にも惹かれるが、かつての人気アナリストだとは気づかない。
インタビューが終わると、上條店主は穏やかな笑みを浮かべながら、「ありがとうございました」と軽く会釈する。
カメラマンの視線を感じつつ、シャツの襟を整えて、そのまま猫たちの世話に戻る。
取材映像は後日ローカル番組で放送され、美人店主と可愛い猫たちの姿は好評を博した。
そして放送の翌日、とある企業の株価が大きく動いた。大規模な仕手筋が関与しているとの噂も流れたが真相は不明。
取材を担当していた記者は放送後に姿を消し、保護猫カフェ「Chat Noveau」は数日後に閉店した。
[終わり]

